どうして彼女の存在がこれほどまでに、僕をとらえるのだろうか。
彼女の、黒い目に宿る光は冷たい。誰にも届かない手紙を心のどこかに隠したまま、生活をしている。
彼女と僕は、破滅へのジェットコースターに乗り込み、後もどりできぬよう金属製ノッチのカタカタと軋(きし)む音を聞きながら、確実に上死点をめざしていた。必死に手を伸ばして、この空をつかもうとしている。
< 警視庁・広域犯罪合同捜査会議において >
昨年10月23日、東京都世田谷区赤堤で発生した国外からの電話誘導による現金略奪、通称『振り込め詐欺』、および一連の事件の主犯格として、
本籍、神奈川県相模原市津久井町白石308番地
現住所、東京都渋谷区宇田川町31の6、櫻井(さくらい)みどり、28歳に対して、逮捕状を請求いたします。
彼女は少数派を意図した『マイノリティー』なる特定非営利活動法人(NPO法人)を設立、合法的活動を装いながらも、広域指定暴力団を巧みに操り、略奪で得た資金を海外送金、幾重にも重ねた資金移動による浄化を繰り返し、再び日本の銀行口座、さきのNPO法人に集約、不法に得た多額の資金を外国為替相場での個人資産運用で得た利益、または個人献金として偽り、日本各地に点在する多くの児童養護施設に寄付、子どもたちへの待遇改善を要求し、実現させてきました。
マスコミの取材にも応じ、現在では知名度の高い彼女を逮捕することは、社会的衝撃が予想されます。その社会的衝撃が一部の国民を扇動し、法治国家を揺るがす脅威へと変ぼうせぬよう情報統制が必要であり、時間を掛け、慎重を期した対応をすべきであります。
< 東洋の魔窟(まくつ)より >
中華人民共和国、広東省に位置する広州駅裏側に、うらぶれた街、三元里が広がっている。その街は公安警察もうかつに手を出せない無法地帯。
その一角に陣取る朽ち果てた木造の家屋、雨露が凌(しの)げる程度の家屋には看板、『南国有限公司』と手書きで書かれた看板がしがみついていた。その奥には、かりそめの事務所なのか灰色の机がひとつ、その上には日本から持ち込まれた海外対応の携帯電話が23台、いずれも非合法的手段で入手した電話であり、電話の登録者から犯行が発覚する可能性はゼロに等しい。二人の日本人男性と三人の中国人女性が金塊を眺めるようなぎらついた視線を放射している。マスターと称する謎の女性からの指示を待っていた。
やがて、泣いた子どもをあやすような着信メロディー『カヴァレリア・ルスティカーナ』が鳴り響くと、その余韻を味わうことなく、応答せよ、とばかりに日本人男性の一人が折りたたみの携帯電話を開いた。
どうやら、ジョヴァンニ・ヴェルガの描いた『田舎の騎士道』、極東の街までは、届きそうもない。
< メキシコ・プエルトヴァジャルタ、海辺の街より >
櫻井(さくらい)みどりは、インターネット上での交友関係を現実社会として融合しているデジタルネイティブたち、彼らが主宰する人権救済フォーラムに参加していた。
彼女は、国籍を問わず参加した多くの人々の熱気あふれる会場にて、各国要人も注視するステージ中央に立ち、あらゆる世界における子どもたちの人権、とりわけ教育の均等、国境を越えた教育政策が必要だとする持論を展開し、一刻も早い対応、デジタルネイティブたちから各国政府への圧力増強を訴えた。
子どもたちの未来のためならば、わたしは悪(あく)にでもなれる、と宣言をすると、会場を揺らすような歓声が轟(とどろ)き、拍手喝采(かっさい)を浴びた。
< 変身 >
僕には、彼女にかけられた呪いなのか宿命なのか、よくわからないけれど、ある日、部屋の片隅で膝を抱え泣いている彼女を見たとき、ただ、抱きしめてあげたい、と思った。
彼女は、櫻井(さくらい)みどりは、人として生まれてきたのに虫けらのように扱われた子ども時代を過ごし、男どもの社会に屈せず戦い続けている。
彼女の崇高な思想は、この空に浮かぶ雲のようなもの。手段を選ばぬやり方、遠い異国の街で人生を朽ち果てていくような彼女の生き方には何故、という疑問が心のどこか、泉のようなところからとめどなく流れてくる。
えたいの知れない深海から彼女を救うことができぬのならば、一緒に堕ちるところまで堕ちていくしかない。人として、ほんとうに必要な感情、慈愛が欠落し変形を引きおこすと、人とは言えない何かに変身していくのかもしれない。
『 番組の途中ですが、臨時ニュースが入りましたので、お伝えいたします。
メキシコ・プエルトヴァジャルタ空港から米国・ヒューストン行きのコンチネンタルエアライン、CO3078便がハイジャックされました。
犯人は東洋系の男女、二人の模様。彼らの要求および目的は、まだ、判明しておりません。』
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うわぁっと更新が滞りがちだなぁと思いますが、ま、まぁ……、と言葉が続かず(^^;)。
昨年末、いつもたいへんお世話になっています『超短編小説会』のお祭りに参加させていただいたお話をアップしました。読みなおしてみますと、なんとも救いの無い内容だなぁと思いながらも、ま、いいか、ですね(^^;)。
今週の月曜日、4月13日から再び出張、というか、またデトロイトに呼び戻されまして、うぅ、と言いながら仕事してます。水曜日までのミシガンは、どんよりとした曇り空、かなり寒くて、春の装いで来てしまった自分を後悔していたのですが、なにやら、神さまに声、苦情が届いたのか、木曜日からは晴天、心地良い春風が吹いてきました。近隣では、そばかすだらけの子どもたちが自転車で爆走しはじめています(笑)。自動車に気をつけてね!と願います。
これからの季節、深緑が増えて、太陽光が強くなり、アスファルトに映る影の輪郭も徐々にくっきりとしてくるのかなぁ、で、夏がやって来る、のかなぁ、と感じています。
ではでは、今回はこの辺で……